
傷あと治療(肥厚性瘢痕、ケロイド)
傷あとでお悩みの方へ
傷あとは、外傷や手術、やけどなどによって皮膚に生じる組織の変化です。
通常、傷が治るプロセスでは、皮膚は元の状態に近づくよう修復されますが、時に肥厚性瘢痕やケロイドといった痕が残ることがあります。
これらの傷あとは、見た目の問題だけでなく、痛みやかゆみを伴うこともあり、日常生活や心理面に影響を及ぼすケースも少なくありません。
特に顔や首、胸など人目につきやすい部位の傷あとは、自信や社会生活に大きく関わることもあります。
当院では、患者さま一人ひとりの傷あとの状態や悩みに合わせた最適な治療法をご提案しています。適切な治療により、傷あとの赤みや隆起を軽減し、見た目の改善や症状の緩和が期待できます。

肥厚性瘢痕
肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)は、皮膚の傷が治る過程で起こる状態で、傷の部分が赤く隆起して固くなる症状です。傷が治るとき、皮膚はコラーゲンを産生して傷を修復しますが、この過程で過剰にコラーゲンが作られ、傷跡が盛り上がってしまうのです。
特徴として、肥厚性瘢痕は元々の傷の範囲内にとどまり、周囲の健康な皮膚には広がらないという点があります。通常、傷ができてから3〜6か月ほどで形成され始め、時間の経過とともに少しずつ改善していくことが多いのが特徴です。症状としては、赤みや隆起のほか、硬さ、つっぱり感、かゆみや痛みを伴うことがあります。
肥厚性瘢痕は胸や肩、関節周辺など皮膚の張力がかかる部位にできやすく、特に若い方に発症しやすい傾向があります。適切な治療を早期に開始することで、より効果的に改善が期待できます。
ケロイド
ケロイドは肥厚性瘢痕と似ていますが、より重症な状態を指します。
最大の違いは、ケロイドが元の傷の範囲を超えて周囲の健康な皮膚へと拡大していく点です。まるでカニのはさみのような形で広がることも特徴的で、一度形成されると自然に改善することは難しく、進行性であることが多いため、専門的な治療が必要です。
ケロイドには個人差や体質的な要素が強く関わっており、ケロイド体質の方は小さな傷でも発症することがあります。胸や肩、耳たぶ、首など特定の部位にできやすく、強いかゆみや痛み、灼熱感などの症状を伴うことが多いです。
また、見た目の問題だけでなく、大きく成長すると関節の動きを制限したり、日常生活に支障をきたすこともあります。ケロイド体質の方は、傷ができた場合、早期から予防的な対策を行うことが重要です。
当院の治療方法
当院では肥厚性瘢痕やケロイドに対して、患者さんの症状や瘢痕の状態、部位などを総合的に判断し、最適な治療方法をご提案しています。
治療は一般的に長期間にわたることが多く、定期的な通院と継続的なケアが必要です。治療法としては切除手術、ステロイド注射(ケナコルト)、内服薬、ステロイド外用薬の塗布などがあり、これらを症状や経過に応じて組み合わせていきます。

ケナコルト注射
ケナコルトは、トリアムシノロンアセトニドという成分を含むステロイド薬で、肥厚性瘢痕やケロイドの治療で最も広く用いられている治療法の一つです。
瘢痕組織に直接注射することで、コラーゲンの過剰生成を抑制し、炎症を軽減する効果があります。これにより、瘢痕の赤み、硬さ、隆起、かゆみ、痛みなどの症状が改善されます。治療は通常、4〜6週間ごとに行い、症状に応じて3〜6回程度の注射を行うことが一般的です。
ケナコルト注射の利点は、比較的短時間で行える点と、早期からの効果が期待できる点です。特に早期の肥厚性瘢痕や小さなケロイドに効果的で、症状によっては劇的な改善が見られることもあります。
ただし、注射部位の一時的な痛みや、皮膚の陥没、色素沈着などの副作用が生じる可能性もあるため、医師と相談しながら治療を進めていくことが重要です。
リザベン
リザベンは、肥厚性瘢痕やケロイドの治療に用いられる内服薬です。
本来は抗アレルギー薬として開発されましたが、コラーゲンの過剰生成を抑制する作用があることから、瘢痕治療にも効果を発揮します。
リザベンは瘢痕組織の形成に関わる繊維芽細胞の活動を抑え、また炎症に関わる化学物質の放出も抑制することで、瘢痕の成長を防ぎます。特にケロイド体質の方や、広範囲の瘢痕、複数の瘢痕がある場合に有効です。
通常、1日3回の服用を数か月間継続することが多く、外用薬や注射療法と併用することで相乗効果が期待できます。リザベンは比較的副作用が少なく安全性が高い薬剤ですが、眠気や消化器症状などが現れることがあります。
また、効果の発現までに時間がかかるため、根気強く継続することが重要です。
当院では患者さんの状態に合わせた適切な用量と期間を設定し、定期的に経過を確認しながら治療を進めていきます。
ステロイド外用療法(塗り薬・貼り薬)
ステロイドの外用薬は、ケロイドや肥厚性瘢痕の初期治療や軽度の症状に対して広く用いられる治療法です。
赤み・腫れ・かゆみなどの炎症症状を抑えるとともに、コラーゲンの過剰な生成を抑えることで瘢痕の進行を防ぐ効果があります。
外用薬には、軟膏・クリームタイプのほか、ステロイド成分を含む貼り薬(テープ剤)もあり、症状や部位に応じて使い分けています。
テープタイプは患部への密着性が高く、一定の圧迫効果も期待できるため、効果を高めたい場合に選択されることがあります。
通常は1日1〜2回、清潔な患部に薄く塗布し、必要に応じて密封療法(塗布後にラップなどで覆う)を併用することで浸透性を高めることもあります。
副作用として、長期使用による皮膚の萎縮や色素沈着などが起こることがあるため、医師の指導のもとで適切に使用することが大切です。
切除手術(当院では行っていません)
ケロイドや肥厚性瘢痕に対する治療のひとつに、隆起した瘢痕組織を切除する外科的治療(切除手術)があります。外見の改善を目的とした方法ですが、体質によっては再発のリスクもあるため、術後の管理も重要です。
当院では、切除手術は行っておりませんが、必要に応じて対応可能な医療機関をご紹介いたします。