
多汗症
多汗症とは
多汗症は、日常生活に支障をきたすほど大量の汗をかいてしまう疾患です。健康的な汗とは異なり、多汗症では常に汗が出続けてしまいます。
この状態は単なる「汗っかき」とは違い、本人の意思とは無関係に制御できないほどの汗が出ることが特徴です。
「日常生活に差し障るほど本人の意志とは無関係に汗が大量に出てしまう状態」が多汗症の特徴となります。たとえば、手汗がひどく書類が濡れてしまったり、衣服に汗ジミができて困ったりするなど、社会生活上の支障が生じます。
さらに、皮膚の浸軟や亀裂が生じるなどの皮膚トラブルが発生したり、汗をかくことで毛穴が詰まり湿疹ができたりすることもあります。また、多汗症の症状そのものがストレスとなって悪循環に陥ることもあります。

多汗症の種類
多汗症は発汗する部位と原因によって分類されます。部位による分類では、全身に汗が増加する「全身性多汗症」と体の一部に汗が増える「局所多汗症」があります。局所多汗症は、手のひら(掌蹠多汗症)、足の裏(足底多汗症)、わき(腋窩多汗症)、頭部・顔面などの特定の部位に症状が現れます。
原因による分類では、他の病気が原因で過剰に汗が出る「続発性(二次性)多汗症」と、そうした基礎疾患がないのに過剰に発汗する「原発性多汗症」に分けられます。
原発性多汗症の原因ははっきりとは解明されていませんが、交感神経が優位になりやすいことが原因と考えられています。
当院における多汗症の治療法
当院では患者さま一人ひとりの症状や生活環境に合わせて、最適な治療法をご提案しています。多汗症の治療には主に薬物療法を行っており、部位や症状の程度によって以下の治療薬から選択します。
また治療と並行して、できるだけ強いストレスを避けるような生活を送ることや、体温調整しやすい服装に気を配ることなどのアドバイスも行っています。さらに、汗疹や湿疹などの皮膚症状、わきや股、足の裏などの臭いを減らすため、汗をかきやすい部位の皮膚をできるだけ清潔に保つよう生活習慣の改善指導も行っています。
多汗症の治療は根気強く続けることが大切です。治療法によっては即効性がなく、効果が現れるまでに時間がかかることがありますが、根気強く行うことが大切です。

エクロックゲル
エクロックゲルは、保険適用のわき汗(原発性腋窩多汗症)の塗り薬(外用薬)です。日本初の保険適用の治療薬として、2020年9月に承認されました。わきの下の過剰な発汗を抑制する効果があります。
多汗症の原因となるわきの汗は、エクリン汗腺という種類の汗腺において、交感神経からでるアセチルコリンという物質が汗腺を刺激することで、多量の汗が分泌されます。エクロックゲルはこのアセチルコリンによる刺激をブロックし、過剰に出る汗を止めます。
使用方法は1日1回、適量をわきに塗布することです。エクロックゲルは、ボトルから直接塗布するタイプのため、塗布後に手を洗い忘れて目をこするなどのリスクが低いという特徴があります。エクロックゲルは使い始めて数日から1〜2週間で効果を実感される方が多く、継続して塗布することで発汗が徐々に抑えられていきます。根気よく毎日使うことが大切です。
副作用として、前立腺肥大や排尿障害、閉塞隅角緑内障の悪化といったリスクが懸念されるため、使用前には必ず医師に相談してください。市販後の調査結果でも全身に影響が及ぶ副作用の発生頻度は低く、汗が減ると懸念される熱中症の報告もないため、一年を通じて安心して使うことができます。
ラピフォートワイプ
ラピフォートワイプは、2022年5月に発売されたわき汗(原発性腋窩多汗症)に対する保険適用の外用薬です。エクロックゲルとの差別化として、ワイプタイプの製剤となっているのが特徴です。
ラピフォートワイプの作用機序はエクロックゲルと同様で、汗腺にあるムスカリンM3受容体を介した抗コリン作用により、塗った局所の発汗を抑えることができます。
使用方法は1日1回、1包に封入されている不織布1枚を用いて薬液を左右の両わきに1回ずつ塗布することです。1回の使用で1袋使い捨てになりますので、旅行などに持って行くのはラクという利点があります。また、塗布後30秒程度で乾燥するため、使用後すぐに服を着ることができます。
ワイプタイプであるラピフォートは薬液含浸の不織布を手で持って使用する必要があります。毎回ゴム手袋をする等の工夫をしない限りは手に薬がつきます。薬が手についた状態で目をこすったり触ったりすることによって散瞳になるリスクがあるため、使用後は必ず手を洗うよう注意が必要です。年齢制限は9歳以上からとなっています。
アポハイドローション
アポハイドローションは、日本初の保険適用の原発性手掌多汗症治療薬で、手のひらの過剰な汗を抑える効果があります。2023年6月に久光製薬より発売されました。
手の発汗は、交感神経から出るアセチルコリンという物質が汗腺に指令を与えて生じます。原発性手掌多汗症の患者さんは、この指令が激しく生じるため手汗が多量となります。アポハイドローションはこの指令をブロックします。
使用方法は1日1回、就寝前に手のひらに塗布することです。
アポハイドローションの有効成分は「オキシブチニン塩酸塩」で、手の汗はエクリン汗腺から分泌されますが、交感神経の支配下にあり、神経伝達物質であるアセチルコリンが放出されることで汗の分泌が促進されます。アポハイドローションの有効成分であるオキシブチニン塩酸塩は、アセチルコリンの放出を阻害する抗コリン作用を持ち、この機能によって汗の分泌を減少させます。
国内における原発性手掌多汗症の有病率は5.33%、およそ20人に1人の割合で、平均発症年齢は13.8歳(男性15.0歳、女性11.6歳)とされています。
年齢制限は、6歳以上からとなっています。
以上が当院で提供している多汗症の治療についての説明です。
治療の選択にあたっては、年齢や症状の部位・程度、生活環境などを考慮して最適な方法をご提案いたします。お気軽にご相談ください。